探偵の一日は、調査現場からではなく、相談室から始まることも多いんです。
初めてお会いする依頼者様は、やっぱり少なからず不安そうな表情をされていることが多いと思います。
「こんなことを相談していいのだろうか」「恥ずかしくないだろうか」──そんな気持ちを抱えながら、扉を開けて来られるんですよね。
ある日、ひとりの女性が静かに椅子に腰を下ろされました。
緊張しているのか、ハンカチを何度もぎゅっと握りしめていて。声をかけると、少し震える声で「誰にも話せなかったんです」と。
その瞬間、ずっと胸の奥に抱えてきた思いがようやく言葉になったのだと感じました。
探偵の仕事というと「証拠を集めること」と思われがちなんですが、実は最初に大事なのは“話を聞くこと”だと思っています。
話を聞きながら気持ちを整理していただくことで、依頼者様自身も「どうしたいのか」「何を確かめたいのか」に気づかれることが多いんです。
その時間が、調査の第一歩になるんですよね。
相談を終えるころには、その女性の表情に少し安心した色が浮かんでいました。
「勇気を出して来てよかったです」──そう言っていただけるたびに、探偵という仕事の意味を改めて感じます。
証拠を集める前に、人の心に寄り添うこと。
それが、私の日々のはじまりなんだと思います。